相続税の申告不要と思われたケースが課税対象になった理由
相続税の申告不要と思われたケースが課税対象になった理由
Koukyuu Realty
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2026年5月、国税庁の「相続税の申告要否判定コーナー」で「申告不要」と表示されたにもかかわらず、後日税務署から申告を求められた事例が複数報告されている。原因は判定コーナーが「遺産総額-債務」の合計値で判定する仕様と、実際の課税価格計算で求められる「個別配分」の間にある構造的な齟齬にある。

基礎控除額の計算と2026年の数値感

相続税の申告不要となる基準は、課税価格の合計額が基礎控除額以下の場合である。基礎控除額は以下の算式で計算される(国税庁 令和7年4月1日現在法令等)。

3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
法定相続人の数基礎控除額
1人3,600万円
2人4,200万円
3人4,800万円
4人5,400万円

法定相続人の数え方は、民法に基づく相続人の順位で確定する。配偶者は常に相続人となり、子、直系尊属、兄弟姉妹の順で優先される。2026年現在、この計算式自体に変更はないが、東京の都心3区における不動産評価額の上昇により、基礎控除額を超えるケースが増加している。

例えば、港区のマンション平均価格は2026年3月時点で1億2,840万円(東日本レインズデータベース集計)であり、単一物件のみで基礎控除額を大きく上回る。相続財産に高額不動産が含まれる場合、申告不要と安易に判断することはほぼ不可能になっている。

課税価格の算出手順と落とし穴

正味の遺産額(課税価格)は以下の式で計算される。

課税価格=遺産総額+相続時精算課税適用財産-非課税財産-葬式費用・債務+加算対象期間内の暦年課税贈与財産

各項目の具体例を挙げる。

非課税財産には、墓地・墓石・仏壇・仏具(300万円相当まで)、死亡保険金(500万円×法定相続人の数)、死亡退職金(500万円×法定相続人の数)などが含まれる。 葬式費用は、葬儀・告別式の費用、遺体の運搬・火葬・納骨費用、死亡診断書・死体検案書の取得費用などが認められる。香典返しの費用は葬式費用として認められない。 債務は、被相続人の死亡時に確定している債務が控除対象となる。連帯債務の場合、被相続人の負担分のみが控除可能である。

この計算において最も問題となるのが、債務や葬式費用の「配分」である。国税庁の判定コーナーは合計値で処理するが、実際の申告では各相続人が取得した財産に応じて比例配分する必要がある。

判定コーナーの限界が露呈した具体例

以下のケースは、国税庁「申告要否判定コーナー」の注意喚起資料にも掲載されている実例である。

事例の前提
  • 相続財産:2億円(不動産1億5,000万円、預貯金5,000万円)
  • 債務:3億円(被相続人名義の事業用借入)
  • 法定相続人:2人(妻・子)
  • 遺産分割:妻が不動産1億5,000万円、子が預貯金5,000万円を取得
判定コーナーの結果

2億円-3億円=0円 → 「申告不要」と判定

本来の課税価格計算
  • 妻の課税価格:1億5,000万円-(3億円×1億5,000万円/2億円)=1億5,000万円-2億2,500万円=0円(マイナスはゼロ扱い)
  • 子の課税価格:5,000万円-(3億円×5,000万円/2億円)=5,000万円-7,500万円=0円(マイナスはゼロ扱い)

この計算では申告不要に見えるが、実際には債務の配分に制限がある。妻が取得した不動産に抵押権が設定されている場合、妻の負担する債務はその不動産の評価額を上限とすることが多い。つまり、妻の債務控除は1億5,000万円に限定され、残り7,500万円の債務は子が負担することになる。

修正後の計算
  • 妻の課税価格:1億5,000万円-1億5,000万円=0円
  • 子の課税価格:5,000万円-1億5,000万円=0円(マイナスはゼロ扱い)→ 債務控除の配分制限により、子の債務控除は5,000万円に限定
  • 子の課税価格:5,000万円-5,000万円=0円

この事例では結果的に申告不要となるが、債務控除の配分制限が適用されると、子の課税価格が5,000万円に留まり、基礎控除額4,200万円を超えて申告義務が生じるケースが存在する。判定コーナーはこのような個別事情を考慮できない。

別の事例を示す。

事例2の前提
  • 相続財産:1億円(不動産8,000万円、預貯金2,000万円)
  • 債務:5,000万円
  • 法定相続人:2人(妻・子)
  • 遺産分割:妻が不動産8,000万円、子が預貯金2,000万円を取得
判定コーナーの結果

1億円-5,000万円=5,000万円 → 基礎控除額4,200万円を超えるため 「申告必要」と判定

本来の課税価格計算(債務配分制限適用)
  • 妻の債務控除上限:8,000万円×(5,000万円/1億円)=4,000万円 → 実際は不動産評価額8,000万円を超えないため4,000万円
  • 子の債務控除:5,000万円-4,000万円=1,000万円
  • 妻の課税価格:8,000万円-4,000万円=4,000万円
  • 子の課税価格:2,000万円-1,000万円=1,000万円
  • 合計課税価格:5,000万円-基礎控除4,200万円=800万円の課税遺産

この場合、判定コーナーと実際の計算は一致するが、債務配分の細かい制限を見落とすと、税額計算で誤りが生じる。

高額不動産を含む相続の特有リスク

東京の高級住宅地における不動産相続では、以下の点に特に注意が必要である。

小規模宅地等の特例と申告要否の関係

特定居住用宅地等の特例(80%評価減)を適用すると、課税価格が大幅に圧縮される。しかし、この特例は申告時に適用されるものであり、申告要否の判定段階では考慮されない。つまり、特例適用前の評価額で基礎控除額を超える場合、原則として申告義務が生じる。

例えば、渋谷区松濤の土地(評価額3億円)を相続する場合、特例適用後の課税価格は6,000万円となるが、申告要否の判定では3億円が基準となる。法定相続人が4人(基礎控除額5,400万円)であれば、特例適用後の課税価格は基礎控除額以下になるが、申告自体は必要である。

相続税の基礎控除額が4,200万円から始まる理由については、別稿で詳述している。 配偶者控除と申告戦略

配偶者の税額軽減(配偶者控除)は、申告が必要な場合に限り適用される。配偶者が取得する財産について、1億6,000万円または法定相続分のどちらか多い方まで相続税がゼロとなる。

この特例を活用するためには、まず申告が必要となる状況を作り出す必要がある。基礎控除額をわずかに超える遺産分割を行い、配偶者控除を適用して税額をゼロに抑える戦略が有効な場合がある。

配偶者控除で税額ゼロにするなら、小規模宅地は誰に残すかの検討も併せておくべきである。 生前贈与の加算と7年ルール

2024年1月1日以降に開始された相続について、加算対象期間内の暦年課税贈与財産が課税価格に加算される。加算対象期間は、相続開始の日の前年の1月1日から起算して過去7年間に拡大された(2023年12月31日以前に開始された相続については3年間)。

年間110万円の非課税枠を活用した生前贈与が複数年にわたって行われている場合、相続時にこれらが一括で加算され、基礎控除額を超える可能性がある。特に、不動産の生前贈与を行い、相続時精算課税を選択した場合は、贈与時の課税価格が相続時に加算される。

申告不要と判断できる安全なケース

以下の条件をすべて満たす場合、申告不要と判断できる可能性が高い。

  • 遺産総額が3,000万円以下である
  • 高額な非課税財産(死亡保険金・死亡退職金)が存在しない
  • 生前贈与(暦年課税・相続時精算課税)が存在しない
  • 債務が遺産総額を大幅に上回っていない
  • 遺産分割が法定相続分に従って行われる
  • ただし、高額不動産を含む相続においては、上記条件を満たすケースは稀である。特に港区・渋谷区・千代田区の不動産を相続する場合、単一物件のみで基礎控除額を超えることがほとんどである。

    実務上の対応と専門家の活用

    申告要否の判定に迷う場合、以下のステップを推奨する。

    第一步:遺産目録の作成

    すべての財産と債務を一覧化する。不動産については、路線価や固定資産税評価額から概算の相続税評価額を算出する。預貯金・有価証券・保険金・退職金については、残高証明書や給付見込額を確認する。

    第二步:簡易シミュレーション

    国税庁の判定コーナーを利用するが、その結果を鵜呑みにしない。債務の配分制限や、非課税財産の取り扱いについて、個別の事情を加味した計算を行う。

    第三步:税理士への相談

    遺産総額が5,000万円を超える場合、または不動産を含む場合は、税理士への相談を検討する。相続税申告の専門家は、判定コーナーでは捕捉できない細かいポイントを指摘できる。

    Koukyuuが対応する3億円以上の不動産取引においては、相続を前提とした資産構成の見直しが頻繁に行われる。特に、複数の不動産を保有する場合の、相続税評価額と実勢価格の乖離を活用した戦略が重要になる。

    相続税還付の5年時効が迫る2026年、富裕層が見落とす土地評価の再検討も併せて確認されたい。

    Koukyuuは麻布・広尾・白金をはじめとする東京の格式ある住宅地を対象とした、取扱下限3億円のプライベート・バイヤーズエージェンシーです。初回相談から引渡しまで、有資格の宅建士本人が一貫して担当します。個別のご相談)はこちらより。

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