
Koukyuu所属の宅地建物取引士が監修
港区・渋谷区・千代田区の高級物件取引に携わる国家資格保有者が、最新の不動産関連法・税制・市況データに照らして本記事を検証しています。宅地建物取引士は、日本国内のすべての不動産取引において法令上の重要事項説明を担う国家資格(合格率約15%)です。
港区の新築高額マンション平均取引価格が2026年初頭に3億円を超えた水準で推移するなか、購入名義を個人とするか法人とするかは、取得時の判断としてより重みを増している。2026年度税制改正大綱(令和7年12月閣議決定)では、取得から一定期間内の貸付用不動産に対する相続税評価の圧縮効果をさらに制限する方向性が示された。評価ルールが変わるたびに名義設計の前提も変わる。以下では、法人による不動産購入の主要メリットを税率・制度・コストの三軸で整理する。
税率差が生む経済的分岐点
個人が不動産賃料収入を得る場合、課税所得900万円超から所得税・住民税の合算税率は43%に達し、4,000万円超では55%が上限となる。法人の場合、資本金1億円以下の中小法人であれば所得800万円以下の部分に軽減税率15%が適用され、地方税を含む実効税率は所得水準にかかわらず概ね23〜30%で頭打ちになる。
課税所得900万円超の時点で個人税率43%に対し法人実効税率は約30%、差は約13ポイントとなる。この分岐点は複数の実務情報源で一致して引用されており、2026年判断基準を整理した実務解説でも同様の水準が示されている。不動産賃料収入が年間3,000万円規模に達する経営者・投資家にとって、法人名義での取得は税負担の構造そのものを変える選択肢となる。
注意すべき点がある。この税率差は「保有・運用フェーズ」の話であり、個人所有物件を後から法人に移転する場合は個人側に譲渡所得税(長期保有5年超で20.315%、短期5年以下で39.63%)、法人側に不動産取得税(固定資産税評価額の3%)と登録免許税(土地・建物それぞれ2%)が発生する。最初から法人名義で取得することで、この二重コストを回避できる点が実務上の大きな利点となる。
減価償却と欠損金繰越の実務的優位
法人は減価償却について任意償却が認められており、償却限度額の範囲内で計上額を年度ごとに調整できる。個人は建物について定額法のみが適用されるため、黒字年に多く計上して課税所得を圧縮するという調整が構造上できない。中古木造物件を法人で取得した場合、耐用年数の短縮によって初年度に大きな損金を計上できるケースがある。
欠損金の繰越期間も法人の方が長い。個人(青色申告)は最長3年であるのに対し、法人(青色申告)は法人税法第57条に基づき最長10年の繰越が認められている。大規模修繕や取得初年度の費用集中など、赤字が発生しやすいタイミングを跨いで損失を活用できる期間が実質的に3倍以上となる点は、長期保有を前提とした高額物件の取得において無視できない差となる。
中小企業に適用される少額減価償却資産の特例(30万円未満、年間合計300万円まで即時全額損金算入)も、内装・設備投資を伴う物件取得後の初期費用処理に有効に機能する。
役員社宅制度と所得分散の設計
法人が所有する物件を役員に貸し出す役員社宅制度は、国税庁の通達(「役員に社宅などを貸したとき」)に基づき、役員が支払う賃料を固定資産税評価額ベースの計算式で算出した「賃料相当額」に抑えることができる。港区・渋谷区の高額物件では、この賃料相当額が市場家賃の10〜20%程度に収まるケースが多く、差額分は法人の経費(福利厚生費等)として損金算入される。
月額賃料が100万円の物件で賃料相当額が15万円であれば、役員個人の手取りに換算した場合の実質的な経済価値は大きい。この制度を活用するには、物件を法人名義で取得していることが前提条件となる。
所得分散の観点では、家族を役員に就任させ役員報酬を支払うことで、累進課税の適用税率を引き下げる手法がある。役員報酬には個人側で給与所得控除(最大195万円)が適用されるため、法人から個人へ所得を移転する際にも控除が機能する。ただし実態を伴わない過大報酬は法人税法第34条に基づく税務否認リスクがあり、報酬額の設定には実務上の根拠が必要となる。
高額物件の取引フローと税務上の判断点については別稿で詳しく整理しているが、名義設計は購入プロセスの最上流で確定させることが原則となる。2026年度税制改正が変える相続・事業承継の前提
2024年1月に施行されたマンション相続税評価の補正ルール改正により、市場価格との乖離率が一定以上の物件については評価額が補正され、従来比で市場価格の60%程度まで引き上げられるケースが生じている。令和5年の最高裁判決(いわゆるタワマン節税否認判決)を受けた国税庁の財産評価基本通達6条(総則6項)の適用強化と合わせ、個人名義による評価圧縮の余地は2024年以降に大幅に縮小した。
法人所有の場合、財産評価基本通達のマンション補正は直接適用されないが、純資産価額方式による株式評価に間接的に反映される。持株会社(ホールディングス)方式では、財産評価基本通達185・186-2に基づき、純資産価額の計算において含み益の約37%相当を法人税等相当額として控除できる。不動産の含み益が大きいほどこの控除額も大きくなるため、高額物件を保有する法人の株式評価は個人が直接保有する場合と比較して低く抑えられる構造がある。
2026年度税制改正大綱では、相続開始5年以内に取得した貸付用不動産を原則として時価評価とする方向性も示されている。令和8年度税制改正の不動産への影響については一次情報を参照されたい。この改正が施行された場合、短期取得・短期相続のシナリオにおける評価圧縮効果は実質的に消滅する。法人スキームの設計においても、保有期間の想定を含めた精緻なシミュレーションが不可欠となる。
事業承継の局面では、不動産を法人所有にすることで相続対象が株式となり、複数の相続人への分割が現物分割より容易になる点も実務上の利点として機能する。
法人設立・維持コストと損益分岐の現実
法人による不動産購入のメリットを享受するには、法人の設立・維持コストを前提として計算に入れる必要がある。株式会社の設立費用は概算で約25万円、合同会社は約10〜11万円となる。設立後は赤字であっても東京都の法人住民税均等割として年約7万円(資本金1,000万円以下・従業員50人以下の場合)が発生し、税理士顧問料は月数万円から発生するのが一般的である。
年間の固定コストを50〜100万円程度と想定した場合、法人化による税負担軽減効果がこのコストを上回るラインは、賃料収入・役員報酬・社宅節税の合計効果によって変わる。課税所得900万円超を継続的に見込める状況であれば、固定コストを差し引いても法人保有の経済的優位は明確となる。
3億円以上の物件を取得する場合、取得時の登録免許税・不動産取得税の負担は数百万円単位に達する。個人取得後に法人移転するルートを選ぶと、この負担が実質的に二重になる。最初から法人名義で取得することで、移転コストをゼロにできる点は高額物件においてより大きな意味を持つ。
2026年の税制変更が取引判断に与える影響については、デューデリジェンスの実務解説も参照されたい。名義設計・スキーム選択・取得タイミングの三点を同時に検討するには、税理士と不動産の専門家が連携した体制が前提となる。判断の前提となる専門家連携
法人による不動産購入のメリットは、税率差・減価償却・役員社宅・相続設計の各層で確認できる。ただし、これらのメリットが実際に機能するかどうかは、取得する物件の種別・所在地・保有期間・法人の資本金規模・既存の所得構造によって大きく異なる。2026年度税制改正の施行状況によっては、特定のスキームが前提としていた評価ルールが変わる可能性もある。
取得前に税理士・公認会計士と連携してシミュレーションを行い、名義設計を確定させることが実務上の原則となる。物件の選定と並行して法務・税務の検討を進めるには、不動産取引の全段階に精通した専門家が初期段階から関与していることが条件となる。
Koukyuu は表参道・青山・麻布台ヒルズをはじめとする東京の格式ある住宅地を対象とした、取扱下限3億円のプライベート・バイヤーズエージェンシーです。初回相談から引渡しまで、有資格の宅建士本人が一貫して担当します。個別のご相談)はこちらから。
