
Koukyuu所属の宅地建物取引士が監修
港区・渋谷区・千代田区の高級物件取引に携わる国家資格保有者が、最新の不動産関連法・税制・市況データに照らして本記事を検証しています。宅地建物取引士は、日本国内のすべての不動産取引において法令上の重要事項説明を担う国家資格(合格率約15%)です。
2026年4月、東京の高級住宅地で相続が発生した場合、不動産を現物で取得した相続人が他の相続人に対して金銭を支払う「代償分割」が選択される頻度が増加している。港区のタワーマンションや渋谷区の低層高級住宅が対象となるケースでは、評価額の決め方ひとつで数千万円単位の相続税額が変動する。国税庁タックスアンサーNo.4173と相続税法基本通達11の2-9・11の2-10に規定された計算方法を正しく理解することが、紛争回避と適正な税負担の両方を実現する鍵となる。
代償分割の評価額を決める法的根拠と基本原則
代償分割における評価額の決め方は、相続税法基本通達11の2-9および11の2-10に明確に定められている。令和7年4月1日現在の法令体系において、この通達が実務上の指針となる。
原則的計算方法は以下の通りである。
- 代償財産の価額は「相続開始の時」における金額、すなわち債務額として確定する
- 交付した相続人(交付者)の課税価格:取得現物の価額-交付した代償財産の価額
- 受け取った相続人(受取者)の課税価格:取得現物の価額+受け取った代償財産の価額
この基本原則のもとで、最も重要な判断が「代償債務の額をいくらに設定するか」という点に集約される。相続人間の合意形成において、しばしば対立が生じるのもこの部分である。
実務上、代償金の算定基準として選択肢となるのは以下の4つである。
| 評価方法 | 算定根拠 | 一般的な水準 |
|---|---|---|
| 時価(実勢価格) | 不動産会社の査定価格、近隣成約事例 | 公示価格の1.0〜1.2倍程度 |
| 相続税路線価 | 国税庁が毎年7月に公表 | 公示価格の約80% |
| 公示価格 | 国土交通省が毎年3月に発表 | 時価の指標として広く利用 |
| 固定資産税評価額 | 区市町村が課税のために設定 | 公示価格の約70%、建物評価に使用 |
相続人全員の合意があれば、相続税路線価や固定資産税評価額を基準とすることも可能である。ただし、後述する調整計算の有無が変わってくるため、基準選択は税務上の戦略的判断を伴う。
時価基準の特例:調整計算の方法と具体例
代償債務の額が「代償分割時の通常の取引価額(時価)」を基に決定された場合、相続税法基本通達は調整計算を要求する。この調整が適用されないと、相続税評価額と実際の経済的価値の間に乖離が生じ、税負担の不公平が発生する。
調整後の代償財産価額=代償債務の額×(相続開始時の相続税評価額÷代償分割時の時価)国税庁タックスアンサーNo.4173に掲載の具体例を引用する。
- 土地の相続税評価額:4,000万円
- 代償分割時の時価:5,000万円
- 支払代償金:2,000万円(時価基準で決定、つまり時価5,000万円の40%に相当)
調整計算の適用:
2,000万円×(4,000万円÷5,000万円)=1,600万円
これが調整後の代償財産価額となる。
- 甲(交付者)の課税価格:4,000万円-1,600万円=2,400万円
- 乙(受取者)の課税価格:1,600万円
調整計算を行わない場合、甲は4,000万円-2,000万円=2,000万円、乙は2,000万円という計算になり、相続税評価額の合計4,000万円に対して課税価格の合計が4,000万円となり整合性が保たれる。しかし、時価と相続税評価額の比率が異なる場合、調整計算が必要となるのである。
2026年の東京高級住宅地において、この比率は物件によって大きく異なる。麻布台ヒルズ周辺や六本木ヒルズ周辺の新築タワーマンションでは、時価が相続税評価額の1.3〜1.5倍に達するケースも少なくない。逆に、築年数の経った低層住宅が密集するエリアでは、比率が1.1倍程度に留まることもある。物件ごとに正確な数値を把握し、調整計算の適用有無を判断する必要がある。
遺産分割協議で用いる評価方法の選択肢と比較
遺産分割協議において、代償金の算定にどの評価方法を採用するかは、相続人全員の合意に委ねられる。法的な強制規定は存在しない。ただし、選択した方法によっては相続税申告時に調整計算が発生したり、譲渡所得税や贈与税のリスクが生じたりする。
時価(実勢価格)を採用する場合メリットは、相続人間の公平感が保ちやすい点にある。複数の不動産会社に査定を依頼し、その平均値や中央値を採用する手法が一般的である。2026年4月現在、港区の新築マンション平均価格は1億2,840万円(2026年3月時点)となっており、エリア内でも物件ごとに幅がある。
デメリットは、調整計算が必要となる点と、時価の確定が困難な場合がある点である。不動産市場の変動期においては、査定価格そのものがブレやすく、相続人間の合意形成に時間を要することもある。
相続税路線価を採用する場合メリットは、客観的な数値が国税庁によって公表されている点と、調整計算が不要となる点である。令和7年分の路線価は2026年7月に公表される予定である。
デメリットは、実勢価格と大きく乖離する場合がある点である。特に再開発が進行中のエリアや、路線価の評価時点から大きく価格変動があったエリアでは、相続人間の納得感を得るのが難しいこともある。
固定資産税評価額を採用する場合建物評価においては、固定資産税評価額が用いられることが多い。ただし、土地と建物を一体として評価する必要がある場合、土地部分と建物部分で異なる評価基準を採用することは避け、統一した基準を適用すべきである。
不動産の共有持分と相続:リスク・手続きの流れ・売却の判断基準については、別途解説している。代償分割における相続税計算の実務ポイント
代償分割を行った場合、各相続人の課税価格の合計は相続財産の総額と一致する。これは相続税法の基本原理である。しかし、遺産分割割合と相続税負担割合が異なることは、相続税法の規定に従った当然の帰結として認められている。
東京地裁令和6年5月23日判決(令和4年(行ウ)379号)は、この点を明確にした。相続人が法定相続分に応じて遺産を分割した場合であっても、代償分割の仕組みを利用することで、実質的な税負担割合を調整できる余地が残されている。
具体例を示す。被相続人の遺産総額が3億円(相続税評価額ベース)、法定相続人が配偶者と子2名の3名であるとする。法定相続分は配偶者1.5億円、子各7,500万円となる。
配偶者が不動産(相続税評価額2億円、時価2.5億円)を現物取得し、子2名に対して代償金を支払う場合を想定する。
時価基準で代償金を算定し、調整計算を適用する。
- 子各々の取得割合:法定相続分の半分ずつ、つまり遺産総額の1/6ずつ
- 時価ベースの代償金:2.5億円×1/6=約4,167万円(子各々)
- 調整計算:4,167万円×(2億円÷2.5億円)=3,333万円(子各々)
配偶者の課税価格:2億円-3,333万円×2=1億3,334万円
子各々の課税価格:3,333万円
配偶者は税額軽減措置(1億6,000万円までの非課税、または1億6,000万円を超える場合の軽減税率)の適用を受ける。子各々は基礎控除後の課税価格が少額となるため、実質的な税負担は軽微となる。
この計算の前提となるのは、遺産分割協議書に代償分割の合意内容が明確に記載されていることである。記載が不十分な場合、税務調査において争点となるリスクが高まる。
高級不動産・富裕層が注意すべき税務リスク
代償分割を利用する際、富裕層に特有のリスクが3つ存在する。
譲渡所得税のリスク代償財産として、相続人が自己所有の不動産(相続財産ではない)を交付した場合、履行時の時価で資産を譲渡したとみなされ、所得税が課税される。これは相続税とは別次元の課税である。
例えば、相続人Aが自己所有の港区の投資用マンション(取得費5,000万円、時価1億円)を、相続人Bに対する代償財産として交付した場合、5,000万円の譲渡所得が発生する。税率は所得税・住民税合計で最大55%(長期譲渡所得の場合20.315%、短期譲渡所得の場合39.63%+住民税)となる。
このリスクを回避するには、相続財産の中から代償財産を調達するか、現金を準備することが必要である。
贈与税のリスク遺産分割協議書に代償分割の記載がない場合、支払われた代償金が贈与とみなされ、贈与税が課される。また、支払う代償金が法定相続分に応じた計算額を大きく超える場合、超過分に贈与税が課される可能性がある。
贈与税の基礎控除は年間110万円のみである。相続税と比較して税率構造が厳しいため、誤った取り扱いは大きな損失をもたらす。
評価時点のズレによるリスク相続開始時点と代償分割時点の間に、不動産市場が大きく変動した場合、当初の想定と異なる税負担が生じる。2020年から2024年にかけての東京高級住宅地の価格上昇期においては、このリスクが顕在化したケースが多数存在する。
相続開始から遺産分割協議の完了までの期間を短縮し、評価時点のズレを最小限に抑えることが望ましい。
芝白金 地価2026年:港区芝・白金エリアの公示地価最新数値と相続への影響についても、参考にしていただきたい。代償金額を巡る相続人間の紛争を防ぐ対策
代償分割の評価額を巡る紛争は、事前の準備でほぼ回避可能である。以下の4点を実行することが有効である。
複数の不動産会社による査定単一の査定価格に依存するのではなく、3社以上の査定を取得し、その分布を把握する。査定価格のばらつきが大きい場合は、査定の根拠を詳細に確認する必要がある。
税理士による相続税試算遺産分割協議に入る前に、複数の分割シナリオについて相続税試算を行う。代償分割を行う場合と行わない場合、評価基準を変えた場合の税額差を数値化することで、相続人間の合意形成が円滑になる。
遺産分割協議書の明確な記載代償分割の合意内容は、以下の項目を含めて明確に記載する。
- 代償分割の対象となる財産の特定(所在地、地番、建物番号など)
- 代償金の算定基準(時価、路線価、固定資産税評価額など)
- 代償金の額
- 支払期限と支払方法
- 調整計算の適用有無
宅建士、税理士、弁護士の適切な役割分担により、技術的な問題を専門家間で解決する体制を構築する。特に高級不動産が対象となる場合、物件の特殊性を正しく評価できる専門家の選定が重要となる。
Koukyuuは、麻布・広尾・白金・港区・渋谷区・千代田区などの東京の格式ある住宅地における不動産相続を専門とする。取扱下限3億円という明確な基準のもと、初回相談から引渡しまで有資格の宅建士本人が一貫して担当する体制を採用している。代償分割を含む複雑な相続案件について、個別のご相談)を受け付けている。
