
Koukyuu所属の宅地建物取引士が監修
港区・渋谷区・千代田区の高級物件取引に携わる国家資格保有者が、最新の不動産関連法・税制・市況データに照らして本記事を検証しています。宅地建物取引士は、日本国内のすべての不動産取引において法令上の重要事項説明を担う国家資格(合格率約15%)です。
2026年度税制改正が法人×不動産の相続戦略を問い直す
令和7年12月19日に閣議決定された令和8年度税制改正大綱は、貸付用不動産の相続税評価に「5年ルール」と呼ばれる新基準を導入した。適用開始は令和9(2027)年1月1日以後の相続・贈与。課税時期前5年以内に取得・新築された貸付用不動産は、路線価方式ではなく通常の取引価額(時価)を基準に評価し直される。簡便計算式は「取得価額(地価変動等を考慮)× 80%」だ。
路線価が時価の70〜80%水準で設定されている港区・渋谷区・千代田区の優良立地では、従来の評価圧縮効果が大幅に縮小する。資産管理会社を設立して不動産を法人所有に切り替える手法は富裕層の相続税対策として長年機能してきたが、2026年以降、その前提条件は確実に変わりつつある。
法人化による相続税対策の構造:何が変わり、何が残るか
法人の資産を相続したら相続税はかかるか
法人の資産そのものは相続されない。法人(株式会社・合同会社等)は法人格を持つ独立した権利主体であり、被相続人が死亡しても法人は存続する。相続人が承継するのは「法人の資産」ではなく「法人の株式または持分」だ。その株式・持分が相続財産として相続税の課税対象となる。
非上場株式の評価には類似業種比準方式・純資産価額方式・折衷方式が用いられ、法人の負債・収益力・含み損益を総合的に勘案する。純資産価額方式では、法人が保有する不動産の含み益を37%の法人税相当額で控除した後の価額が算定基礎となる。東京都心の優良立地では不動産の含み益が大きく、この控除効果が相続税評価を引き下げる機能を果たしてきた。担当税理士はこの評価構造を個別物件の数値で確認する必要がある。
法人は相続できるか
法人自体を相続することはできない。被相続人が保有していた株式・持分を相続人が取得することで、実質的に法人の支配権と資産を引き継ぐことは可能だ。この仕組みが「法人化による相続税対策」の核心であり、個人が直接不動産を保有するより株式評価の方が低くなるケースがあることが、法人設立の主な動機となってきた。
法人化の実務的な利点
役員報酬として家族に所得を分散することで、相続財産の肥大化を抑制しながら給与所得控除を活用できる。所得税の累進課税(最高税率45%)と法人税率(中小法人の軽減税率15%、通常23.2%)の差を利用した節税効果も、法人設立の動機として依然有効だ。個人が不動産売却益を得た場合の課税(短期譲渡所得税率39.63%、長期30.63%)との比較でも、法人保有のメリットは残る。
2026年以降の制約
5年ルールの導入により、法人への不動産移転後5年以内に被相続人が死亡した場合、法人株式の純資産評価において当該不動産が時価(取得価額×80%)で計上される可能性が生じる。路線価評価との乖離が大きい都心一等地ほど影響は深刻だ。収益性が高い法人では内部留保が純資産として株式評価に反映されるため、法人化が相続税評価の上昇要因に転じるリスクも従前から存在する。
小規模宅地等の特例(租税特別措置法第69条の4)は法人所有土地には原則適用されない。この点は法人化を検討する経営者が見落としやすい論点であり、担当税理士との事前確認が不可欠だ。
法人が不動産を受贈した場合の税金
法人が不動産の贈与を受けた場合、個人とは異なる課税関係が生じる。個人間の贈与には贈与税が課されるが、法人が受贈者となる場合、贈与税は課されない。受贈した不動産の時価相当額が法人の益金(受贈益)として計上され、法人税の課税対象となる。税率は中小法人の軽減税率15%または通常の23.2%だ。
贈与者が個人の場合、贈与者側には「みなし譲渡課税」が適用される(所得税法第59条)。時価で譲渡したものとみなされ、取得価額との差額に譲渡所得税が課される。短期保有(5年以下)なら39.63%、長期保有(5年超)なら20.315%の税率が適用される。
法人間の不動産贈与では、贈与法人側に寄附金課税、受贈法人側に受贈益課税が生じる。グループ法人税制の適用がある場合は別途検討が必要だ。いずれのケースも、不動産取得税(固定資産税評価額の3〜4%)と登録免許税(固定資産税評価額の2%)が別途発生する。税理士による事前試算なしに贈与を実行することは、想定外の税負担を招くリスクがある。
5年ルールの具体的な射程:対象財産と経過措置
令和8年度税制改正大綱が示す5年ルールの対象は、「被相続人または贈与者が課税時期前5年以内に対価を伴う取引(購入・交換等)で取得または新築した一定の貸付用不動産」だ。一棟ビル・アパート・賃貸区分所有マンションがこの射程に入る。不動産小口化商品については取得時期にかかわらず課税時期における時価評価へ移行し、事業者が示す処分価格・買取価格・売買実例価額・定期報告書記載価格を参酌する形となる。
経過措置として、以下の全要件を満たす場合は従来の通達評価が継続される。第一に、被相続人等が「通達に定める日」より5年前から所有する土地の上に新築した家屋であること。第二に、その家屋が「通達に定める日」までに新築(建築中を含む)されたものであること。長年保有してきた自己所有地の上にアパートを新築するケースは適用除外になる可能性がある。土地自体を5年以内に取得した場合はこの除外規定の対象外となる点に注意が必要だ。
2026年4月時点で具体的な通達はまだ未公表だ。「通達に定める日」の具体的日付、貸家建付地・貸家評価における借家権控除の取扱い、法人所有不動産への5年ルールの直接適用可否、いずれも確定していない。資産規模の大きい経営者・投資家ほど、改正大綱の段階で結論を出すことの危険性を認識しておく必要がある。不動産の相続税評価額の計算方法や2026年度税制改正による5年ルールの具体的計算例は、通達の公表後に改めて精査することを勧める。
令和4年4月19日の最高裁判決(タワマン節税訴訟)を契機に令和6年1月1日から施行されたマンション通達(居住用区分所有財産の評価通達)との関係も整理しておきたい。貸付用タワーマンションには今回の5年ルールとマンション通達が重畳適用される可能性があり、評価額の圧縮余地はさらに限定される。
相続税の基本数値と法人株式承継のコスト感覚
現行の相続税制度における基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人数」(相続税法第15条)だ。法定相続人が3名であれば4,800万円の控除が適用される。税率は10%から55%の累進構造(相続税法第16条)で、申告期限は死亡を知った日の翌日から10か月以内(相続税法第27条)。配偶者控除は法定相続分または1億6,000万円まで非課税(相続税法第19条の2)、生命保険の非課税枠は500万円×法定相続人数(相続税法第12条第1項第5号)となっている。
法人株式を承継する場合、これらの基本数値は変わらない。変わるのは課税財産の評価方法だ。5年ルールの下では、直近に取得した貸付用不動産について取得価額×80%が評価基準となる。路線価が時価の70〜75%程度で設定されている南青山・元麻布・白金台等の高額地では、従来の路線価評価と5年ルール評価の差が事実上消滅する。生前に法人化を完了させ、5年の保有期間を確保してから相続を迎えるというスケジュール管理が、今後の資産承継計画において一層重要になる。
法人から個人への不動産移転には不動産取得税・登録免許税・譲渡所得税が発生するため、設立時の移転コストを含めたトータル計算が必要だ。税理士による5年・10年・20年のタイムライン別シミュレーションが、判断の前提となる。
相続登記義務化と法人所有物件の実務対応
令和6年4月1日施行の相続登記義務化(改正不動産登記法第76条の2)は、相続開始を知り所有権取得を知った日から3年以内の申請を義務付け、違反時の過料は10万円以下とされている。施行前の相続にも遡及適用がある。令和8年4月1日からは、登記名義人の住所・氏名変更登記も義務化された(改正不動産登記法第76条の5)。変更の日から2年以内に申請しなければ5万円以下の過料の対象となる。法人が所有する不動産についても、代表者の住所変更や商号変更が生じた場合は対応が求められる。
令和8年2月2日からは所有不動産記録証明制度も始まった。法人も自社所有物件の一覧を証明書として発行してもらうことができ、相続手続きや事業承継の場面で所有不動産の全体像を把握するコストが大幅に下がる。相続登記義務化2026年の過料・期限・住所変更登記の最新実務では、法人名義物件を含む実務上の対応フローを整理している。
2026年以降の実務:税理士を含む専門家連携が前提になる
法人による不動産相続対策は、税務・法務・不動産評価の三領域が交差する。5年ルールの具体的な通達が未公表のまま2026年4月を迎えた現在、資産管理会社の設立タイミング、法人への不動産移転の時期、役員報酬の設計、株式の生前贈与スキームのいずれについても、暫定的な判断を下すことのリスクは高い。
「取得価額×80%」という簡便計算式の適用範囲、地価変動の加味方法、貸家建付地における借家権控除の存続可否は、都心高額物件の評価に直結する未確定事項だ。不動産デューデリジェンスの実務と2026年税制改正が富裕層の取引判断を変える理由でも指摘しているように、取得段階から相続税評価の将来変動を織り込んだデューデリジェンスが求められる局面に入っている。
法人化の判断を急ぐ必要があるケースと、5年ルールの通達確定まで待機すべきケースは、個々の資産構成・相続人構成・保有物件の種類によって異なる。「法人化が有利か不利か」という一般論に意味はなく、具体的な物件・評価額・相続人数・保有期間を前提とした個別計算のみが判断根拠になる。この個別計算を主導するのが、不動産に精通した税理士の役割だ。
港区・千代田区・渋谷区の3億円超の不動産を複数保有する経営者であれば、資産管理会社の設立・維持コスト(会計・税務・登記・社会保険等)と相続税評価の圧縮効果を5年・10年・20年のタイムラインで比較するシミュレーションが不可欠だ。不動産鑑定士・弁護士・信託銀行・税理士との連携体制を構築している専門家チームへのアクセスが、富裕層の相続対策の実効性を左右する。
Koukyuu は、表参道・青山・麻布台ヒルズ周辺をはじめとする東京の格式ある住宅地を対象とした、取扱下限3億円のプライベート・バイヤーズエージェンシーです。初回相談から引渡しまで、有資格の宅建士本人が一貫して担当します。相続対策を含む不動産取得のご相談は、個別のご相談よりお問い合わせください。
