
Koukyuu所属の宅地建物取引士が監修
港区・渋谷区・千代田区の高級物件取引に携わる国家資格保有者が、最新の不動産関連法・税制・市況データに照らして本記事を検証しています。宅地建物取引士は、日本国内のすべての不動産取引において法令上の重要事項説明を担う国家資格(合格率約15%)です。
2024年1月1日施行の税制改正により、相続税計算における生前贈与の「持ち戻し期間」が3年から7年へ段階的に延長された。この変更は、70代後半から慌てて暦年贈与を始めた富裕層の節税効果を大幅に低下させている。2026年5月現在、東京の高級不動産を巡る相続戦略は、根本的な見直しを迫られている。
暦年贈与の終焉と相続時精算課税の台頭
これまで暦年贈与は、毎年110万円の基礎控除を活用した定番の節税手法だった。しかし2024年改正により、生前贈与財産の相続税への持ち戻し期間が7年に延長されたことで、高齢期からの贈与は相続直前まで加算対象となるリスクが高まった。
具体例で示す。80歳の資産家が暦年贈与を開始し、毎年1,000万円を3年間贈与した場合、2023年までは3,000万円のうち最新3年分のみが相続税加算対象だった。2026年時点では7年分まで遡って加算される。贈与税を支払った上で相続税でも課税される「二重取り」の構造が強化された。
この状況下で、相続時精算課税制度への関心が急速に高まっている。同制度は2,500万円までの贈与に贈与税がかからず、相続時に一括して精算される仕組みだ。2024年改正で加わった「年110万円の基礎控除」により、毎年110万円以下の贈与は申告不要かつ相続時加算も免除される。暦年贈与の代替として、制度設計上の優位性が明確になった。
不動産相続と贈与の税金比較シミュレーション
固定資産税評価額1億円の東京都心マンションを想定し、相続と生前贈与の税負担を比較する。
相続の場合- 登録免許税:評価額の0.4%=40万円
- 不動産取得税:非課税
- 小規模宅地等の特例:適用可(居住用宅地は最大80%減額)
- 相続税:基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)適用後、累進課税
- 登録免許税:評価額の2.0%=200万円
- 不動産取得税:評価額の3〜4%=300〜400万円
- 小規模宅地等の特例:適用不可
- 贈与税:2,500万円まで非課税、超過分20%
数字が示す通り、不動産の生前贈与には「流通税」の壁がある。登録免許税と不動産取得税だけで500〜600万円の差が生じる。小規模宅地等の特例が使えない点も、贈与の最大のデメリットだ。
ただし、相続時精算課税制度の2,500万円特別控除と年110万円基礎控除を組み合わせれば、長期的な節税効果は別の計算になる。令和6年改正が変えた相続時精算課税、不動産贈与で110万円の基礎控除が実務的に何を意味するかで詳しく解説している。
小規模宅地等の特例が使えない贈与の構造的損失
相続税の小規模宅地等の特例は、節税額において圧倒的な影響力を持つ。特定居住用宅地については、相続税評価額から80%を減額できる。固定資産税評価額1億円の自宅があれば、実質2,000万円の評価で相続税が計算される。
この特例は相続に限定される。生前贈与では適用されない。相続税の実効税率が10〜20%として単純計算すれば、1億円の自宅を相続で受け取るか贈与で受け取るかで、800万円の税負担差が生じうる。登録免許税・不動産取得税の差を加味すれば、贈与の総コストは相続の2倍以上になるケースが普通だ。
ただし、特例には条件がある。相続人が被相続人と同居していた期間が原則として必要で、相続開始から20カ月以内に居住を継続しなければならない。事実婚関係や別居の親子では適用が困難になる。2026年4月、時価の80%が示す親族間不動産売買の実務的リスクも参照されたい。
生前贈与が依然として優位な三つのケース
構造的な不利にもかかわらず、生前贈与が相続より有利となる状況は存在する。
将来値上がりが確実な物件への先行投資再開発が確定したエリアや、大規模都市計画が進行中の地点では、贈与時の評価額で相続税計算に加算される。10年後に評価額が1.5倍になれば、その5000万円の値上がり分は無税で子世代に移転できる。港区・渋谷区・千代田区の特定地点では、この「評価ギャップ」の期待値が流通税を上回る。
収益不動産の早期ベクトル変更賃貸マンションや商業ビルを所有する資産家にとって、家賃収入の帰属先を早期に子世代に移すこと自体が目的になる。親の所得に加算されないことで、累進課税の回避と老後の公的負担整理が同時に実現する。
複数相続人による「争族」リスクの回避相続人が4人以上で、特定の子に不動産を集中させたい場合、遺言だけでは実現困難なケースがある。生前贈与により確実な財産移転を完了させ、残りの資産で法定相続分を調整する戦略は、訴訟リスクを最小化する。
2026年時点での実務的判断フレームワーク
結論を先に述べる。不動産については、原則として相続が有利だ。例外は限定的だ。
相続を選ぶべき条件- 自宅を所有し、同居または介護の実態がある
- 評価額が基礎控除内に収まる見込み(3,000万円+600万円×法定相続人数)
- 老後の医療・介護費用に不安があり、資産の流動性を維持したい
- 再開発等により明確な値上がり見込みがある特定物件
- 収益不動産の所得ベクトル変更が優先課題
- 複数相続人間の確執が深刻で、早期確定が必要
暦年贈与については、60代前半から10〜20年のスパンで計画的に実施する場合に限り、節税効果が期待できる。70代からの短期間贈与は、2024年改正後の7年持ち戻し期間により実質的に機能不全に陥っている。
東京高級不動産の評価動向と節税効率の低下
国税庁「令和6年路線価」(2024年7月公表)では、東京23区の商業地・住宅地が令和5年比で平均3〜7%上昇。港区・千代田区・中央区の高級住宅街では、路線価の上昇が相続税評価額を押し上げている。
さらに2024年から、高級マンションの相続税評価額算定方法が厳格化された。これまで節税効果が大きかったタワーマンションの低層階・狭小専有面積住戸について、評価額が実勢価格に近づく方向で調整が進んだ。
不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向調査 2025年3月」によると、都心6区の新築マンション平均価格は1億5,000万円超(坪単価約600万円)を記録。価格上昇と評価厳格化のダブルパンチにより、「不動産購入=相続税対策」という単純な方程式は成り立たなくなった。
相続税取得費加算の特例が、港区・渋谷区の高額不動産で機能する条件については別途検討が必要だ。年110万円基礎控除の戦略的活用と長期設計
2024年改正で新設された相続時精算課税制度の年110万円基礎控除は、実務上のゲームチェンジャーとなりうる。
60歳で制度を選択し、毎年110万円を贈与し続けた場合、25年で2,750万円が非課税・非加算で移転できる。2,500万円の特別控除と組み合わせれば、長期・大額の資産移転が税制コストを最小化しながら実現する。
この「長期暦年贈与」の復権は、高齢期の慌てた贈与ではなく、計画的な世代間資産移転の重要性を示している。相続税対策は、相続の10年・20年前から始まる。
Koukyuu は麻布・広尾・白金をはじめとする東京の格式ある住宅地において、3億円以上の取扱下限を設けたプライベート・バイヤーズエージェンシーとして活動している。初回相談から引渡しまで、有資格の宅建士本人が一貫して同席する体制を維持している。不動産の取得と世代間移転についての個別のご相談)を承っている。
