
Koukyuu所属の宅地建物取引士が監修
港区・渋谷区・千代田区の高級物件取引に携わる国家資格保有者が、最新の不動産関連法・税制・市況データに照らして本記事を検証しています。宅地建物取引士は、日本国内のすべての不動産取引において法令上の重要事項説明を担う国家資格(合格率約15%)です。
2024年7月1日に施行された宅建業法改正により、空き家等に係る媒介報酬規制が拡大された。物件価格800万円以下の低廉な住宅について、売主から受領できる報酬上限が33万円(税込36.3万円)に引き上げられ、双方からの受領時も合計66万円(税込72.6万円)の枠組みが整った。この改正は東京の高級不動産市場と、いわゆる”安価な住宅”の取引現場を隔絶した二つの世界を生み出している。
800万円の壁と33万円の計算式
改正前の特例は価格400万円以下の物件に適用され、上限報酬は18万円(税込19.8万円)であった。令和6年の改正で対象価格が800万円まで倍増し、上限額も33万円へと83%の引き上げとなった。これは国の空き家対策の一環であり、劣化した住宅の円滑な売買を促進する狙いがある。
標準的な報酬上限の計算式と対比すると、この特例の意図が明確になる。売買価格400万円の物件であれば、原則上限は400万円×4%+2万円=18万円(税込19.8万円)である。800万円の物件では原則計算式で38万円(税込41.8万円)となるが、特例適用で33万円(税込36.3万円)に抑制される。つまり800万円物件では原則よりも報酬が減るが、400万円物件では上限が上がる構造となっている。
この33万円の数字は、宅建業者の業務コストと空き家流通の促進のバランスを取った政策判断の産物である。東京都住宅政策本部の解説資料では、空き家等の売買における媒介業務の特殊性、つまり物件調査や瑕疵リスクの高さを勘案した調整とされている。
賃貸媒介の二重構造と長期空室の取り扱い
賃貸媒介における報酬規制も2024年改正で見直された。原則として貸主・借主合計で賃料1ヶ月分×1.1が上限だが、長期の空家等に係る特例により、貸主からは2.2倍まで受領できる。これは3年を超える空室や、特定の地域で需要が著しく低迷する賃貸住宅を対象とする。
ただし注意点がある。「入居者募集を行っている賃貸集合住宅の空き室」は事業用として扱われ、特例対象外となる。タワーマンションや大規模賃貸住宅の空室は、たとえ長期化してもこの特例が適用されない。実務上、賃貸媒介契約書に”あっせんの有無”を記載する際、この区分けが重要になる。
借主からの報酬については、原則0.5ヶ月分が上限(事前承諾なしの場合)という規制は継続されている。賃貸媒介で借主から受け取れる報酬が1ヶ月分となるのは、貸主が支払わない場合の代理業務に限られる。この点は賃貸住宅の募集状況や、借主の資力状況を勘案した契約設計に影響する。
高級物件での付加価値サービスと報酬の分離
3億円を超える高級不動産の売買において、媒介報酬の計算式は単純だ。売買価格×3%+6万円(税抜)×1.1である。10億円物件で3,366万円、30億円物件で9,966万円という仲介手数料が上限として発生する。これは10億円物件の仲介手数料が3,366万円に達するまでの計算式と、値引き交渉が機能しない理由で詳しく解説している通り、数字の大きさそのものが交渉の障壁となる。
2024年改正で重要なのは、媒介業務と別途の関連業務を明確に分離できる点である。媒介契約とは別に書面を締結したコンシェルジュサービス、資産運用提案、リフォーム監理、税務相談等は、報酬規制の対象外となった。これは高級不動産市場で付加価値サービスの収益化を可能にする制度変更である。
実務上、この”別途書面”の要件が厳格に運用されている。媒介契約書とは別紙の業務委託契約を締結し、報酬額・業務内容・成果物を具体的に記載する必要がある。単に”仲介手数料とは別にコンシェルジュ料をいただきます”という口頭の了解では不十分だ。
媒介契約書の記載事項と2026年の実務対応
令和6年4月1日に施行された標準媒介契約約款の改正により、記載事項が増えた。特に高額物件で注目されるのは、あっせんを”無”とする場合の理由記載欄の設置である。専属専任媒介契約であっても、特定の買主候補にはあっせんを行わない、という方針を明文化できるようになった。
2026年5月現在、媒介契約書に必ず記載すべき項目は以下の通りだ。
物件の表示。所在地・地番・建物番号・専有面積・築年数・構造。売買すべき価額。媒介契約の種類(一般・専任・専属専任)と有効期間。報酬の額、その計算方法、支払時期。契約違反時の損害賠償額の見積り方法。標準約款の別途交付有無。
REINSへの登録義務も厳格化されている。専任・専属専任媒介契約を締結した場合、5日以内の登録が義務付けられている。2026年の東京の高級物件市場では、この登録タイミングが売主のプライバシー志向と衝突するケースが増えている。特定の資産家が所有する麻布や広尾の物件では、REINS登録を遅らせたい、あるいは非公開で売却したいという要請が強い。
二極化する仲介業務と富裕層バイヤーへの影響
800万円以下の空き家取引と3億円以上の高級不動産取引は、仲介業者の収益構造から見て別物になった。33万円上限の世界では、業者は物件数を稼ぐしかない。一方で高級物件では、単一取引の報酬額は大きいが、求められる専門性とサービス水準も別格だ。
この二極化は富裕層バイヤーに二つの影響を与えている。第一に、高級物件専門の仲介業者と、安価物件専門の業者の間で情報の分断が進んでいること。第二に、高級物件の売主側仲介業者が、買主側のニーズを十分に汲み取らないまま価格交渉に臨むケースが増えていること。
2026年、3億円物件の仲介手数料が値引き交渉で動く具体的条件で指摘した通り、高額物件の報酬上限は計算式の性質上、値引き交渉が機能しにくい。売主側業者が報酬を譲歩するインセンティブが弱い構造である。この状況下で、買主側に立つ専門家の存在意義が高まっている。媒介報酬の上限規制は、あくまで仲介業者の受取額を制限するものであり、買主の利益を直接保護するものではない。3億円以上の取引では、デューデリジェンスの範囲、瑕疵担保責任の配分、支払条件の設計など、報酬計算式の枠を超えた交渉項目が多数存在する。
令和6年改正の残された課題
2024年改正から2年が経過した2026年現在、いくつかの実務的な課題が浮上している。
空き家等の定義の曖昧さだ。”居住の用に供されていない住宅”の判断基準は、水道・電気の使用状況、郵便物の受取状況、所有者の居住意思など複合的な要素を勘案するが、明確なラインはない。800万円の価格認定も、路線価や公示地価、実勢価格のいずれを基準とするかで変動する。
賃貸媒介の特例適用についても、”長期の空家”の3年という期間の起算点が問題になる。賃貸契約の更新を繰り返しながら実質的空室状態を維持するケース、いわゆる”シャッター街”化した賃貸住宅の扱いなど、境界事例が残っている。
これらの課題は、個別の取引ごとに宅建業者と依頼者の間で合意形成が必要な領域である。媒介契約締結前の説明義務が厳格化されているのは、この背景がある。
Koukyuu は港区・渋谷区・千代田区をはじめとする東京の格式ある住宅地を対象とした、取扱下限3億円のプライベート・バイヤーズエージェンシーです。初回相談から引渡しまで、有資格の宅建士本人が一貫して担当します。個別のご相談)はこちらより。
