
Koukyuu所属の宅地建物取引士が監修
港区・渋谷区・千代田区の高級物件取引に携わる国家資格保有者が、最新の不動産関連法・税制・市況データに照らして本記事を検証しています。宅地建物取引士は、日本国内のすべての不動産取引において法令上の重要事項説明を担う国家資格(合格率約15%)です。
借地借家法第26条が定める「正当事由」の壁は、2026年現在も貸主にとって高い。港区の高級賃貸マンションで月額賃料100万円超の物件を保有するオーナーが、普通借家契約を締結したまま自己使用や建替えを理由に退去を求めようとしても、裁判所が正当事由を認める基準は依然として厳格だ。一方、定期借家契約の採用件数は増加傾向にある。LIFULLが2025年12月に公表したレポートでは、定期借家物件のシェアが2026年春の繁忙期に向けてさらに拡大する可能性が指摘されており、賃料水準の上昇とあわせて市場構造の変化が進んでいる。
本稿では、普通借家契約と定期借家契約の制度上の違いを整理し、富裕層が賃貸物件を保有・活用する際の判断基準を示す。
普通借家契約とはなにか:基本構造と「正当事由」の重み
普通借家契約は、借地借家法を根拠とする賃貸借契約の基本形態だ。契約期間は1年以上であれば自由に設定できる。実務では2年とするケースが大半を占めるが、これは慣行であって法律上の上限ではない。
普通借家の2年契約はどんな意味を持つか
普通借家契約で2年という期間を設定することは、貸主と借主の双方にとって条件見直しの節目となる。期間満了の1年前から6ヶ月前までに更新拒絶の通知を行わなければ、法定更新が自動的に成立する(借地借家法第26条第1項)。法定更新後の契約は従前と同一条件で継続するが、期間の定めのない契約となる。更新後に貸主が解約を申し入れるには、正当事由に加えて6ヶ月前の通知が必要になる(同法第27条)。
更新拒絶には「正当事由」が必要であり(同法第28条)、その判断は貸主側の事情だけで決まらない。裁判所は、貸主の建物使用の必要性、借主の建物使用の必要性、建物の現況、立退料の提供の有無などを総合的に考慮する。南青山や西麻布の高額賃貸物件では、立退料の水準が数千万円に達するケースも珍しくない。立退料を積んでも認められないケースも存在する。
普通借家契約で1年未満の契約期間を設定するとどうなるか
普通借家契約で1年未満の契約期間を設定すると、借地借家法第29条第1項により「期間の定めのない賃貸借契約」として扱われる。6ヶ月の短期契約を締結しても、法律上は期間の定めがない契約になり、解約申し入れから6ヶ月後にしか終了しない。貸主にとっては想定外の拘束が生じる。1年未満の短期賃貸を意図するなら、定期借家契約の形式を選択する必要がある。
普通借家契約書にはなにが記載されているか
普通借家契約書には、契約期間、賃料、敷金の額と返還条件、中途解約の条件、賃料改定の仕組みが記載される。どの条項が普通借家契約書として有効かを判断するうえで重要なのは、「更新がなく、期間の満了により賃貸借が終了する」旨の記載が存在しないことだ。この記載がある場合は定期借家契約書として扱われる。口頭での説明だけでは定期借家契約の効力は生じない。
普通借家契約書と定期借家契約書のどちらであるかは、この一文の有無で判別できる。契約書が何枚あっても、この記載がなければ普通借家契約として法的効果が生じる。いくつかの条項を確認する際も、まずこの点を最初に押さえるべきだ。
賃料改定の交渉は更新のたびに可能だが、借主が応じない場合は借地借家法第32条に基づく賃料増減額請求訴訟に移行する。
定期借家契約の制度と普通借家契約との決定的な違い
定期借家契約は、借地借家法第38条を根拠とする。契約期間の満了により確定的に賃貸借契約が終了し、更新は発生しない。再入居を希望する場合は、双方合意のうえで新たに再契約を締結する必要がある。
普通借家契約との最大の違いは、この「更新がない」という点だ。貸主は正当事由を問われることなく、期間満了をもって建物の返還を受けられる。売却・建替え・自己使用への転換を将来的に検討しているオーナーにとって、定期借家契約は計画の実行可能性を高める手段となる。
定期借家契約の成立要件
定期借家契約が有効に成立するためには、以下の要件をすべて満たす必要がある。
- 書面による契約(口頭による定期借家契約は無効)
- 「更新がなく、期間の満了により賃貸借が終了する」旨を記載した書面を、契約書とは別に事前に借主へ交付・説明すること(同法第38条第2項)
- 上記説明を怠った場合、定期借家契約としての効力を失い、普通借家契約として扱われる
いくつかの要件のうち、別書面による事前説明の欠如が最も多いトラブルの原因となっている。
中途解約の扱い
定期借家契約では、原則として中途解約はできない。ただし、居住用建物で床面積200平方メートル未満の物件については、借主が転勤・療養・親族の介護等のやむを得ない事情により生活の本拠として使用することが困難になった場合に限り、借主側からの中途解約が認められる(同法第38条第7項)。貸主側からの中途解約は、契約書に特約がある場合を除き認められない。
普通借家契約と定期借家契約:どちらを選ぶべきか
貸主の視点
普通借家契約のメリットは、借主が安定して長期入居する傾向があり、空室リスクが低い点だ。港区・渋谷区の高級賃貸市場では、外資系企業の駐在員需要が根強く、2年契約の普通借家で安定した入居が続くケースが多い。デメリットは、退去を求める際の正当事由の立証が困難なことと、立退料の負担が生じる可能性だ。
定期借家契約のメリットは、期間満了後の返還が確実に見込める点だ。建替えや相続対策上の売却を視野に入れているオーナーにとって、資産の流動性を確保しやすい。麻布台ヒルズ周辺や六本木ヒルズ近隣では、再開発に伴う建替え計画を持つオーナーが定期借家契約に切り替える動きが2025年後半から顕在化している。デメリットは、再契約時に空白期間が生じるリスクだ。
借主の視点
普通借家契約は、更新を重ねることで長期的な居住の安定を得やすい。定期借家契約は期間が明確なため、海外赴任からの帰国時期が決まっているケースや、一定期間だけ借りたい場合に適している。賃料水準については、定期借家物件が普通借家物件より低い傾向があるとされてきたが、2026年の東京都心部では高級賃貸市場全体の賃料上昇を背景にこの差が縮小しつつある。
2020年民法改正と2026年の実務上の注意点
2020年4月1日施行の民法改正により、個人が連帯保証人となる賃貸借契約には極度額の明記が義務付けられた(民法第465条の2)。極度額の記載がない場合、保証契約は無効となる。普通借家契約・定期借家契約のいずれも対象であり、既存の契約書を流用する際は必ず確認が必要だ。
法人保証や保証会社を利用する場合はこの規制の適用外となるが、2026年現在、月額賃料100万円超の物件では保証会社の引受け自体を断られるケースも出ている。
電子契約による締結は、宅地建物取引業法改正(令和4年5月施行)によるIT重説の正式解禁とあわせて普及が加速しており、2026年現在、都心の高額賃貸でも電子契約を採用する事例が増えている。建物賃貸借契約書は印紙税法上の課税文書に該当しないため、紙・電子を問わず印紙税は不要だ。
契約書面の確認と実務上の核心
普通借家契約か定期借家契約かは、契約書の記載内容で判断する。どちらの契約書であるかを見分けるポイントは、「更新がなく、期間の満了により賃貸借が終了する」旨の記載の有無だ。この記載がなければ普通借家契約として扱われる。
契約更新の有無、中途解約の条件、敷金の償却・返還ルール、賃料改定の仕組みは、いずれも契約書の具体的な記載を確認する必要がある。高額物件では敷金が賃料の6ヶ月分から12ヶ月分に設定されることも多く、その返還条件は入居前に精査すべき事項だ。
賃貸借契約の重要事項説明は、宅地建物取引業法第35条に基づき宅建士が行う義務を負う。多くの仲介会社では、契約書への署名・捺印の直前まで無資格の営業担当が対応し、宅建士は重要事項説明の場面にのみ登場する体制をとっている。交渉過程や条件確認の段階で専門的な判断が介在しない構造は、高額物件ほどリスクが大きい。
Koukyuu は表参道・青山・北青山をはじめとする東京の格式ある住宅地を対象とした、取扱下限3億円のプライベート・バイヤーズエージェンシーです。初回相談から引渡しまで、有資格の宅建士本人が一貫して担当します。個別のご相談はこちらから。
