不動産デューデリジェンスの実務:2026年税制改正が富裕層の取引判断を変える理由
不動産デューデリジェンスの実務:2026年税制改正が富裕層の取引判断を変える理由
Koukyuu Realty
記事監修 ✓ 認定済み
Koukyuu 宅地建物取引士 記事監修アドバイザー

Koukyuu所属の宅地建物取引士が監修

港区・渋谷区・千代田区の高級物件取引に携わる国家資格保有者が、最新の不動産関連法・税制・市況データに照らして本記事を検証しています。宅地建物取引士は、日本国内のすべての不動産取引において法令上の重要事項説明を担う国家資格(合格率約15%)です。

2027年施行の税制改正が、DDの優先順位を塗り替えた

2026年3月27日、大和総研が公表した令和8年度税制改正大綱の分析レポートは、貸付用不動産を活用した相続税の節税スキームに対する当局の姿勢を明確に示した。課税時期前5年以内に取得した貸付用不動産は、路線価・固定資産税評価額ベースの評価を廃止し、時価評価へ移行する。 施行は2027年1月1日以降の相続・贈与からであり、現時点では1年を切った準備期間に入っている。

不動産小口化商品、具体的には不動産特定共同事業契約または信託受益権に係る金融商品取引契約については、取得時期を問わず一律で時価評価が適用される。従来のように評価額と時価の乖離幅を節税の根拠とする手法は、制度的な根拠を失う。

この改正が不動産デューデリジェンスの実務に直接影響する。従来のDDが「物件の現状把握」を中心に組み立てられていたとすれば、2026年以降は「取得日から課税時期までの期間管理」が新たな必須項目として加わる。3億円以上の取引では、法務・物理・財務の各DDに加え、税務上の時価算定と取得タイミングの整合性確認が一体的に求められる局面に入った。


不動産DDの6領域:10億円超の取引で標準化された体制

取引額10億円を超える案件では、弁護士・公認会計士・不動産鑑定士・一級建築士による専門チームを組成したDDがほぼ標準となっている。費用は買い手負担が原則であり、実施タイミングは買付証明書提出後から契約締結前が一般的だ。契約締結後は解除条件が限定されるため、DDを後回しにするほどリスクが積み上がる。

実務上、DDは以下の6領域に整理される。

法務DD

登記簿謄本の確認から始まり、境界確定の有無、用途地域・建蔽率・容積率の適合性、接道義務、既存不適格の有無、検査済証の取得状況、現在進行中または過去の訴訟履歴まで網羅する。港区・千代田区の番町エリアでは、古い土地の分筆経緯が複雑なケースがあり、境界確定に時間を要することがある。

物理DD

躯体状態の目視および非破壊検査、屋上防水の劣化度、耐震診断のIs値(旧耐震基準物件では0.6以上が補強の目安)、アスベスト含有調査、PCB使用の有無、消防設備の法定点検記録を確認する。1981年以前竣工の物件では耐震改修促進法に基づく耐震診断義務の対象となるケースもあり、取引前の確認が必要だ。

環境DD

土壌汚染対策法に基づくPhase I調査(文献・現地踏査)とPhase II調査(土壌サンプリング)を段階的に実施する。液状化リスクの評価には国土交通省が公表する液状化ハザードマップを参照するが、東京湾岸の埋立地と内陸の台地では地盤条件が大きく異なる。白金台・元麻布・西麻布は台地上に位置し、液状化リスクが相対的に低い地域として認識されている。

テナントDD

賃貸借契約の内容(賃料・保証金・契約期間・更新条件・原状回復特約)、テナントの信用調査、現行賃料と周辺相場との乖離幅、敷金・保証金の預かり状況、テナントの継続意向を確認する。2026年現在、港区の高級住宅賃貸では月額坪単価が4万円から6万円台に分布しており、テナントDDの結果が収益性評価に直結する。

財務DD

過去3年分の収支実績、長期修繕計画と積立金の充足率、公租公課の内訳、火災保険・地震保険の付保状況、未払債務の有無を精査する。管理組合の議事録も重要な情報源であり、大規模修繕の計画・実績が記録されている。高級マンション購入の流れと実務:2026年の取引相場と登記費用でも触れているとおり、登記費用と修繕積立金の水準は取得コストの試算に欠かせない要素だ。

運営DD

管理会社の評価、管理委託契約の内容と解約条件、警備・清掃契約の仕様、駐車場の稼働率と収支への貢献度を確認する。管理の質は資産価値の維持に直結するため、管理会社の財務健全性と実績年数も確認対象に含める。


令和8年度改正が富裕層DDに加えた新たな確認項目

今回の税制改正が実務に与える最大の変化は、「取得日の記録管理」が法務DDの中核に昇格した点にある。課税時期前5年以内という基準は、取得登記日を起点に計算される。したがって、売買契約書の締結日と所有権移転登記日の両方を正確に記録し、将来の相続開始時点との関係を事前にシミュレーションしておく必要がある。

具体的には、以下の3点が新たな確認事項となる。

第一に、取得日から相続予定時期までの期間試算。 被相続人の年齢・健康状態を考慮した上で、5年基準を超えるかどうかを取引時点で試算する。これは従来の法務DDの範囲外だったが、2026年以降は宅建士と税理士が連携して確認すべき項目となった。 第二に、不動産小口化商品の保有状況の全体把握。 信託受益権型・TK型の小口化商品は取得時期を問わず時価評価の対象となるため、既存ポートフォリオ全体の評価額を再確認する必要がある。新規取得物件のDDと並行して、既存保有資産の棚卸しを行うことが合理的だ。 第三に、時価と路線価の乖離幅の現状確認。 改正後は乖離幅が節税効果を生まなくなるが、取引価格の妥当性評価においては依然として重要な指標だ。不動産鑑定士による鑑定評価書を取得し、時価の根拠を明文化しておくことが、将来の税務調査への備えにもなる。 外国人の不動産取得規制が2026年に強化、東京の高額物件市場への影響でも指摘されているとおり、2026年は複数の制度変更が重なる年であり、取引ごとに最新の法令状況を確認する体制が求められる。

実施タイミングと費用負担:見落とされがちな実務の原則

DDの実施タイミングについて、実務上の原則は明快だ。買付証明書の提出後、売買契約の締結前に完了させる。この順序を守ることで、DD結果に基づいた価格再交渉・条件変更・取引中止の選択肢が確保される。

契約締結後にDDを実施するケースは、解除条件を契約書に明記している場合を除き、買い手にとって著しく不利な状況を生む。重要事項説明書に記載されていない瑕疵が発見されても、契約解除の根拠が限定されるためだ。

DD費用の相場は案件規模と調査範囲によって幅があるが、10億円規模の物件で法務・物理・環境の3領域を専門チームで実施した場合、総額で数百万円から1,000万円超に達することがある。この費用を「コスト」と捉えるか「保険料」と捉えるかは、取引後のリスク管理の考え方による。3億円以上の取引では、DD費用の取引額に対する比率は通常1%未満に収まる。

なお、高級マンション購入の流れ7段階|3億円以上の取引で宅建士同席が必須の理由で詳述しているとおり、DDの各段階に宅建士が関与することで、重要事項説明書との整合性確認と条件交渉が一体的に進む。無資格の営業担当が主導するDDでは、法的な確認事項の見落としが生じやすい。


港区・渋谷区の高額物件で特に注意すべきDD固有リスク

東京の格式ある住宅地では、物件ごとにDDで浮上しやすいリスクの傾向が異なる。

南青山・北青山エリアでは、商業地域と第一種住居地域が隣接するため、用途地域の境界線と建物の配置関係を正確に確認する必要がある。隣地の将来的な高層開発リスクも、法務DDの段階で日影規制・斜線制限の観点から試算しておくことが望ましい。 元麻布・西麻布の低層住宅地では、第一種低層住居専用地域の指定が多く、既存建物の容積率消化率が低いケースがある。増築・建替えの際の制約と、現況建物の既存不適格の有無を物理DDと法務DDの両面から確認する。 代官山・松濤では、築年数の経過した邸宅物件の流通が一定数ある。この場合、アスベスト含有調査(吹付け材・断熱材・床材)と、旧耐震基準物件の耐震診断が物理DDの中心となる。1981年以前竣工の物件では、耐震改修に要するコストを取得価格に織り込んだ収支試算が不可欠だ。 六本木ヒルズ・麻布台ヒルズ周辺の大規模複合開発に隣接する物件では、将来の周辺開発計画が資産価値に与える影響を運営DDの観点から評価する。都市計画図書・地区計画の内容確認は、法務DDの一環として弁護士または宅建士が直接行うべき作業だ。

DDを形式化させないための体制設計

DDが形式的な書類確認に終わるケースと、実質的なリスク評価として機能するケースの差は、専門家チームの構成と情報共有の質にある。

弁護士が法務DDを担当し、不動産鑑定士が時価評価を行い、一級建築士が物理DDを実施しても、それぞれの報告書が独立して存在するだけでは総合的なリスク判断につながらない。各領域の調査結果を統合し、取引条件への反映と意思決定を主導する役割が必要であり、その機能を果たすのが宅建士を中心とした取引管理者だ。

2026年の税制改正対応という観点では、DDの統合報告書に「取得日と課税時期の関係」「時価評価額の根拠」「既存ポートフォリオへの影響」の3点を明示的に盛り込むことが、実務上の新たなスタンダードになりつつある。

富裕層の不動産取引では、一つの物件の取得判断が相続税・固定資産税・所得税の複数の税目に同時に影響する。DDをその入口として設計することが、資産保全の観点から合理的な判断だ。


Koukyuu は表参道・青山・西麻布をはじめとする東京の格式ある住宅地を対象とした、取扱下限3億円のプライベート・バイヤーズエージェンシーです。初回相談から引渡しまで、有資格の宅建士本人が一貫して担当します。個別のご相談)はこちらから。

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